君の背中に見えた輝く翼に、私は恋に落ちました
ずっと一緒にの文字が刻まれた

未来の約束のしるしの指輪。

「本当に?

翼くんじゃない人と…

キスしちゃった駄目な

わたしでも?」

不安げに見つめるわたしに、

「おう、それでも…

ってか、流羽は駄目なやつじゃ

ねーよ。

どんな流羽だって、俺にとっては

大切な存在なんだよ。

だから、俺が大切に想ってるやつを

悪く言うのは、流羽でも

許さねーから」

そう言ってくれた。

翼くん…

キミはどうしてこんなにも

優しいの?

どうして全て受け止めて

くれるの?

もっと怒っていいんだよ?

傷ついたって責めてもいいんだよ?

なのに、どうして

そんな優しい瞳で、声で、

わたしを包もうとするの?

駄目なのに…

甘えてしまいたくなるよ。

わたしの涙を拭いながら、

翼くんは言った。

「流羽には後で、慰めて

もらうとして…

その前にやることがある。

俺の手を絶対離すなよ?

傍にいるから」

そして、わたしの手を握り

向かった先は…

お店の前で立ち尽くす

隼人さんのところ。

握られた手をギュッと握ると

安心しろと言わんばかりの顔で

笑った。

隼人さんと対峙した翼くんは

冷静な表情をしているように

見えるけど、目には怒りの

色が滲んでいて、バチバチと

音が聞こえてくるみたいに

隼人さんを見つめている。

「あんた、バレー部の日向だろ?

大輝の従兄弟の。

こいつは…流羽は

俺の大切な彼女なんだよ。

泣かせてんじゃねーよ!

流羽が好きなんだろ?

だったら、好きなやつを

困らせたり泣かせるな!」

低く掠れた声で話す翼くんを

こんな状況なのに、

カッコイイと思ってしまう。

怒りをぶつけるだけじゃなく、

反省させようとしてる。

隼人さんのやり方は間違ってる

って。

翼くんらしい、やり方だ。

「桐生…すまない…

春瀬さんも、泣かせちゃって

ごめんね…」

ガバッと頭を下げた隼人さんに

「あの…もう頭上げて下さい。

隼人さんのやり方は、あの…

間違ってたと思います。

でも、好きだと言われて

嬉しくなかった訳じゃありません。

それでも…

わたしには翼くんだけが

翼くんしか…

好きになれないんです。

だから、ごめんなさい!」

そう言ったわたしの頭に

手を乗せて溜め息をついた

呆れ顔の翼くんは、

「こういう流羽を好きに

なったんだから、仕方ねーけど

心臓に悪いから、もう勘弁な?」

そう言って、少しだけ笑った。

「…はい」

話し合いが無事に終わり、

ホームまで送ると言ってくれた

翼くんは、わたしの手を

ギュッと握ったまま、

無言で歩き続ける。

隣に歩く翼くんの手の温もりを

感じながら、

翼くんは今、何を考えてるの?

そして、わたしは何て言えば

いい?と自問自答を

繰り返しながら自分の足を

ジッと見つめていた。

不意に強い力で引っ張られた

わたしは、態勢を崩してしまい

翼くんの胸に倒れこむ形に…

「わわっ!!」

後ろから抱きしめられている

事に、胸がドキドキしているわたし。

抱きしめられること、数秒…

腕を解いた翼くんは、ホームに

近い公園に入って行く。

手を引く翼くんの後ろ姿に

戸惑いや不安を覚えるけど、

さっきの事、わたしから

ちゃんと話さなきゃって思った。

無言のまま、ベンチに腰掛けた

わたし達。

12月に入って、夜の風は

ヒンヤリとしていて、少し肌寒い。

わたしは、意を決して話そうと

口を開いた…

その時翼くんも何か話そうとして

いたのか声が被る。

「あのね」「あのさ」

お互いにびっくりした顔のまま

固まって…

顔を寄せ合って笑った。

なんてタイミングなんだろう。

ずっと一緒にって約束したけど、

話すタイミングまで一緒なんて…

緊張が吹き飛んだわたしは、

自分から話を切り出した。

翼くんのお誕生日プレゼントを

用意したくて、バイトを始めたこと。

それが、日向くんの叔父さんの

営むカフェで、そこで隼人さんと

出会ったこと。

サプライズで驚かせたくて

秘密にしていたこと。

プレゼントを買うお店を

知らないわたしに隼人さんが

案内してくれたこと。

そして…

お店を出たところでキスをされ、

告白されたこと。

途切れ途切れに話すわたしの

言葉をジッと聞いてくれた

翼くんは、大きく溜め息をついた。

「そうだったのか…

正直、流羽が俺じゃない奴に

キスされるの見た時は

かなり堪えたけど…

でも、俺の為に頑張ってくれてた

んだって分かったら、

あー、やっぱり流羽には

敵わねー…好きだなって思った」

そう言って空を見上げて

口元に笑みを浮かべた。

そんな翼くんを見て、

わたしこそ敵わないって思う。

わたしが逆の立場なら、きっと

あの場から逃げ出していたと

思うもん。

翼くんを信じずに疑って、

話も聞かなかったかもしれない。

だけど、翼くんは逃げずに

向き合って、わたしの手を

取ってくれた。

大丈夫って言ってくれた。

それがどれだけ、わたしを

救ってくれたか…

「わたしも翼くんには

敵わないって思ったよ…

もっともっと好きになった」

言葉では上手く伝えられない

気がして、わたしは翼くんの

身体に腕を回した。

ありがとう、翼くん…

本当に大好きだよ。



< 96 / 102 >

この作品をシェア

pagetop