記憶を失くした少女【完】
可愛らしい歌声が部屋の中に響く。
歌の内容としては、好きな人の近くにいるのに気づいてもらえないっていう感じで、切ない乙女心を歌っている。
曲が終わると周りがワイワイと騒いで最後に盛り上げ た。
聞いたことあっても歌えるほどじゃないから、私は皆の歌を聞きながら、ドア近くのソファーに座ってジュースを飲んでいた。
こんなに賑やかなのは初めてで、この場にいるだけでも楽しく思える。
「お前も歌えば?」
隣に座っていた遥輝がデンモクを片手にそう言ってきた。
「私あんまり歌詞とか音程とか覚えてないから、皆のを聞いてる方が楽しい」
「……ふーん。じゃあ、これ歌え」
「……………はぃ!!??」
遥輝がデンモクから転送したのは、西田カノちゃんの『Destamce』だった。
「わ、私歌えないって………!」
そう言ったのに絶対聞いてない、この人!!!
「あ、これ前に来たとき萌が歌ったやつじゃん~!」
「あ、ほんとだぁ!萌、これ好き♪」
「綺羅が歌うからマイク貸せ」
転送されたことによって皆も反応しだし、歌わないといけないような雰囲気にされていく。