記憶を失くした少女【完】
私がジロジロ顔を見ていたからか、男もまた私の顔をジロジロ見ていた。
「あ、すいません………」
私が顔から目をそらしても、男はまだ私の顔を見ている。
よく、観察するかのように。
「よくみたら…………山田ちゃんだろ?」
男は陽気に「当たり?(笑)」と聞いてきた。
まさか…………………この人。
「何回もメール送ったのに既読つけないしさぁ、僕寂しかったんだからね~!!」
あの中の誰かか!
「あ、まさか僕に会いに来たんでしょ?」
男はそう言うと私の方に腕を回した。
吐き気がするほどのお酒とタバコの臭い。
「違います………!!!」
必死に男の腕を退けようと抵抗するが、
「そんなに恥ずかしがらなくていいって!髪の毛染めたんだね?前の方が可愛かったなぁ~………」
男には全然効かない。
「ほら、ホテル行くんだろ?どこいく?(笑)」
男はついに、私を強引に連れて歩きだそうとした。
このままじゃヤバい。
_____ドンッ!!!
思いっきり男の足を踏んで、突き飛ばす。
「いてて~………何すんだよぉ!痛いじゃないか!!!」
「私、山田綺羅じゃないです!」
取りあえず嘘をつく。
「はぁ?んなわけねぇだろ!俺はな、お前の身体の全てを知ってんだからなめんなよ!」
男は突き飛ばされた怒りからか、それともお酒を飲んでヒートアップしたからか、大声で叫ぶ。
周りは『え?なに??修羅場~?(笑)』といった感じで私達を見ていた。
注目されてスゴく恥ずかしい。
ここから凌馬さんのバーまで10分程度…………。
助けを求めにいける距離だけど、私の足じゃ落ち着かれるかもしれない。
……………あ、電話!!!
私は鞄から急いでケータイを取り出すが、男に無理やり取り上げられてしまった。
「誰に電話する気だったんだ?今日は俺の番だろ?」
ニヤリ……とするその顔が、とても気持ち悪く感じた。