土方歳三の熱情
chapter1
心臓がドキドキと激しく鼓動していたのは最初だけだった。

木刀を構えて相手と対すると、私の心はいつも通り静かに落ち着く。


周囲では近藤勇、土方歳三、沖田総司らそうそうたる面々がこちらを見つめている。

私の剣技が新撰組の隊士としてふさわしいのかどうか、
審査するための立ち合いが今まさに行われている。

立ち合いが始まる直前までは、弟の身代わりとして新撰組に入ることを軽々しく引き受けてしまったことを後悔していたし、
鋭い視線を投げかけてくる新撰組の幹部達には私が女だということがすぐにバレてしまうのではないかと不安になってもいた。

しかしいざ立ち合いが始まると、目の前の相手に集中していつも通り木刀を振るだけだ。


自分で言うのもなんだけど、
私は道場の跡取りとして将来有望と言われる弟の伊之助にただの一度も負けたことがない。

目の前の相手は新撰組の若手の隊士でなかなか腕が立つようだけど、それでも私の相手としては力不足だ。

落ち着き払った私の態度にジレたのか、相手は強引に間合いを詰めてくる。

相手の打ち込みを後ろに下がりながらかわし、私の木刀は素早く小手を打つ。

小さな振りだが鋭い一撃に、相手の隊士は木刀を落としてしまう。
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