その手が離せなくて
「ほんと・・・・・・バカみたい」


泣きたくなんて、ないのに。

涙が耐え切れずに瞳から零れ落ちる。

唇を噛みしめて耐えるのに、感情の渦の中ではどうする事もできない。


「お似合いの夫婦か」


一ノ瀬さんが奥さんといる姿を想像するだけで、嫉妬で狂ってしまいそうだった。

忘れたいのに忘れられない事が、苦しくて、辛くて、どうしていいのか分からない。


逃げてしまいたかった。

この狂ってしまいそうな感情からも、この場所からも。


出口のない迷路の中に迷い込んだ様だった。

グルグルと同じ場所を何度も何度も彷徨っている。


息が徐々に荒くなる。

気が付いたら駆け出していた。


まるで逃げる様に。

現実を振り切る様に。

ただ、我武者羅に。

彼から少しでも遠ざかりたくて――。
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