その手が離せなくて
自分の荒い息が耳元で聞こえる。

涙が目尻を通って、散っていく。

凍てつくような風が頬を撫でていくけど、走る事を止められない。

それでも、息苦しさを覚えて、ようやく足を止めた。


「――ゴホッ」


思わず小さく咽て、胸に手を当てる。

体を起こした勢いで空を見上げると、細い木々の枝がまるで檻の様に世界を覆っていた。


それでも、そこでふと我に返る。

背中に冷たいものを感じて、恐る恐る周りを見渡した。


「うそ・・・・・・でしょ」


見渡した景色に愕然とする。


世界を覆うのは、何ひとつ見えない暗闇。

先程まであったと思っていた灯りが一つもない。

あるのは、ただ真っ直ぐ天に伸びている木々だけ。


そこに佇むのは。

私、ただ一人――。


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