その手が離せなくて


泣き疲れてか、憔悴してか、ボーっとする頭で揺れる世界を見つめる。

お互い何も言わずに、ただ抱き上げられるまま真っ暗な世界を進む。

すると。


「いましたっ!! ここですっ」


私を抱き上げていた彼が、突然そう言って声を上げた。

涙で濡れた顔を上げると、遠くの方に灯りと人の声が聞こえた。

みんな探してくれていたんだと分かって、一気に申し訳なさが湧き上がる。


「とりあえず、手当てしなきゃな」


それでも、安堵の溜息を吐いた私を見て、そう言った彼。

小さく頷いた私を見て、仕方ないな。って顔で笑って、ビー玉の様な瞳を少し細めた。

その姿を見て、思わず唇を噛み締める。


あぁ。

もう、壊れてしまいそう。

愛おしくて、涙が出る。


逃げるように下を向いて、ぐっと瞳を閉じた。

この先、きっと後悔する日がくるだろう。

誰かに、後ろ指を指される日がくるかもしれない。

自分の積み上げてきたもの、すべて失うかもしれない。

それほど、許されない想い―――。


だけど。


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