その手が離せなくて

「無事でよかった」


強く私を抱きしめて、一ノ瀬さんは息を吐いてそう言った。

その広い背中に腕を回して抱き着いた私の頭を、何度も優しく撫でながら。


「ごめんなさいっ」

「怪我は?」

「本当に、ごめんなさいっ」

「もう大丈夫だから」


しゃくりあげる私の背を、まるで子供をあやす様にポンポンと優しく叩く彼。

大きな胸の中にすっぽりと収まる私の体。

途端に、彼の香りが胸に広がって涙の量が増した。


不安が一気に溶けていく。

安堵が心を覆って、心の底から怖かったんだと悟った。

だけど、彼の姿を見た瞬間、もう大丈夫なのだと思った――。




「持ち上げるぞ」


しばらくして、縋る様に抱きついていた私にそう言って、彼は一気に私を持ち上げた。

お姫様抱っこをされた事に気が付いて、一気に羞恥が湧き上がったけど、確かに自分の足では立てるはずもなかった。

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