その手が離せなくて

胸が張り裂けてしまいそうだった。

嫉妬が渦を巻いて、涙が増幅する。


嫉妬する権利なんてないのに。

その気持ちを抱く事自体、間違っているのに。

それでも、今頃私の傍にいてくれたであろう彼が、誰かの傍にいる事が悔しかった。

あの笑顔を、独り占めしていたかった――。


「私ってバカな女」


そうだと分かっているのに、止まらない。

この狂った考えが間違いだなんて、もう分からない。


会いたかった。

楽しみにしていた。

奥さんよりも、私を選んでほしかった――。


届くはずのない言葉が、消えていく。

受け取ってくれる人は、手の届かない所にいるから。

誰よりも近くにいると思っていたのに、それは幻だった。

どれだけ心を交わそうが、体を重ねようが、私は所詮『不倫相手』だった。



「ねぇ……会いたいよ」


小さくそう呟いて見上げた月は、もう雲に隠れて見えなかった。



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