その手が離せなくて
「お弁当、無駄になっちゃった」
小さくそう呟く。
そっと蓋に手を当てると、まだほんのり温かかった。
何度目か分からない溜息が落ちる。
どれだけ溜息を落としても、この事実は変わらないというのに。
「帰ろう」
どれだけ、そうしていただろう。
月の位置がこの公園に着いた時よりも随分傾いていた。
重たい腰を上げて、足を前に出す。
ここに来た時は、あんなに軽い足取りだったのに。
初めてだった。
『不倫』の辛さを知ったのは。
『罪の重さ』を知ったのは。
今頃、彼は綺麗な奥さんの傍で笑っているんだろうか。
私の大好きな笑顔で。
キスをして、頭を撫でて、未来の話でもしているのだろうか。
会いたい時ほど、どうして会えないんだろう。
私じゃ、彼を幸せにする事はできないんだろうか。
私は、邪魔者なんだろうか――。