その手が離せなくて
『好き』とは言ってはくれない。

私の事が少なからず『タイプ』だとも、ストレートには伝えてはくれない。


だけど、それでいいのかもしれない。

こんな関係だから仕方ないと言えばそれまでだけど。

それでも、言葉だけが全てじゃないと思う。

彼の仕草や行動から感じ取るものも多いと思う。


今日1日過ごした中で、彼の気持ちを見た気がする。

優しく私の髪を撫でる手。

私の顔を見て、柔らかく微笑むその姿。

そこから、彼の気持ちを少しだけでも感じ取れた気がする。


「十分だよ。一ノ瀬さん」


欲張りだった自分に、そう言い聞かせる。

今日彼が私の為に1日時間をくれたこの事だけで、私は幸せなのだと思いたい。



「次は、いつ会えるんだろ」


願いの様な言葉を落として、空を見上げる。

見上げた先に見えたのは、ビルの隙間に浮かぶ綺麗な満月だった――。

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