その手が離せなくて
なんだろう。

胸騒ぎがする。

頭の中で警報が鳴り響いている。

逃げて、と頭の中で誰かが呟くのに、体がまるで石の様に固まって動かない。



コツ。



逃げ出したい気持ちのまま立ち尽くしていると、綺麗なヒールの音が聞こえたと同時に、目の前に一人の女性が立っていた。

淡い街頭に映し出されたその姿に、思わず言葉も無くして魅入ってしまう。

驚く程、綺麗だったから――。


切れ長の瞳に、小さな唇。

どこか品のある面持ちで、それでいて妖しさも兼ね備えた女性。

全てのパーツが恐ろしく小さくて、まるで人形の様だった。

だけど、その顔から表情というものが抜け落ちていて、ゾッとする。

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