その手が離せなくて

「――あの日、萌の言っていた事は間違ってなかったね」


あの日、萌の言葉の通りにしていたら何か変わっていたのかな。

引き戻せたかもしれなかったのに。

誰も不幸にならなかったかもしれないのに。

その道を選ばなかったのは、私自身だ。

誰のせいでもなく、私自身。


「私と一ノ瀬さんは、運命の相手なんかじゃなかった」


以前、2人で話していた言葉を思い出す。

彼は私にとって運命の相手だと言った私。

その言葉に、萌は出会った人が結婚している時点でそれは運命の相手なんかじゃないと言った。


あの時は、一ノ瀬さんを運命の相手だと疑わなかったけど、今は違ったと思う。

萌の言うとおりだと思う。

私の側に彼がいない事が、何よりの証。


「運命の相手じゃなかった・・・・・・」


薄く笑いながら、もう一度繰り返してそう言った私を萌は悲しそうに見つめた。

少し前までの私なら涙を流していたんだろうけど、不思議と心は穏やかだった。

こうやって、笑っていられる。

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