その手が離せなくて
「そろそろ行くね」


まるで逃げるように席を立って、そう言う。

これ以上ここにいたら、決心が鈍りそうで。

優しい思い出に、足を取られそうで。


「――うん」

「暇ができたら遊びにきて? 下見はバッチリしておくから」


隣の椅子に置いてあった大きなバックを肩にかけて、微笑んでみせる。

どこか寂しそうにしていた萌だったけど、応える様に笑った。


「美味しい博多ラーメンの店、見つけておくね。萌、ラーメン好きでしょ?」

「うん。ラーメン大好き」

「九州って私行った事ないから楽しみだなぁ」

「九州男児ってなんかカッコイイよね。そっちも下見しておいて」


ケラケラと笑い合って、出発ゲートまで向かう。

後ろ髪を引かれる隙も与えない様に、楽しい会話を繰り広げながら。
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