その手が離せなくて

◇◇◇

◇◇



「あ、しゅん君それ資料室に運んでおいてくれる?」


両手に資料を抱えて私の隣をバタバタと駆けて行こうとした少年を止める。

少年とは失礼かもしれないけど、高卒で入ったばかりの彼は私から見たら十分少年だった。


「も~望月さん。『しゅん』じゃなくて、『とし』って名前なんですけど。俺」

「『上谷内(かみやち)俊』でしょ。ほら、『しゅん』とも呼べるじゃん」

「とし、です!!」


まるでハムスターの様に頬を微かに膨らませた少年に、クスクスと笑う。

周りの社員も、どこかマスコットの様に可愛らしい彼を見て笑みを溢していた。


「お願いね、しゅん君」

「も~、望月さん!」


ケラケラと笑う声が事務所に響く。

どこか眩しい光景に目を細めながら、ゆっくりと窓の外に目を向けた。


すると、雲一つない空が見えた。

どこまでもどこまでも、青い空が。
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