その手が離せなくて
街灯の少ない道に、パンプスの音が不規則に響く。
凍える程の寒さの筈なのに、お酒のせいもあってかポカポカと体が温かい。
やっぱり週末のお酒はいいもんだなぁ。
明日も明後日も休みだと思うと、自然と頬が上がる。
小さく鼻歌を歌いながら、見慣れた道を行く。
そんな時、ちょうどすれ違った1人の男性が足を止めて振り返った。
そして――。
「望月さん?」
不意に聞こえた声に、足を止める。
それでも、どこか聞き覚えのあるその声に勢いよく振り返った。
「い、一ノ瀬さん!?」
「やっぱり望月さんだ」
「どうしたんですか!? こんな所で」
思ってもみなかった突然の展開に、大きく目を見開く。
一気に心臓が早鐘を打っていくのが分かる。
そんな私とは正反対に、一ノ瀬さんはいつもと変わらない様子で顔を綻ばせた。