その手が離せなくて
もしかしたら、彼も私の事を――・・・・・・。


甘いキスに酔いしれて、そんな淡い期待が胸を覆う。

暖かい舌が何度も私の中を動き回って、大きな手が優しく私の髪を撫でる。


幸せ。

それ以外、何ものでもない感情が胸を覆う。

さっきまでの後悔がスッと消えていく。


ずっとこのまま、こうしていたい。

少しの隙間も、もどかしく感じて、そっと彼に体を寄せた。

水気を帯びた音と、互いの熱い吐息が静かなエントランスに漏れる。

永遠にも感じたキスに酔いしれて、彼の服を掴んでいた手をゆっくりと下す。


「――っ」


それでも、指先に触れたモノの感触で一気に我に返る。

ドクンと大きく心臓が鳴って、触れていた唇を勢いよく離して、目の前に立つ彼を見上げた。


目を際限まで見開いて、言葉を失う。

声を発する事もできずに、瞳を揺らした。

そんな私を見て、彼も感じ取ったのか少しだけ瞳を伏せた。


まるで、逃げるかのように――。
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