クールな公爵様のゆゆしき恋情2
「アレクセイ様、ラウラ様、父が筋違いなお願いを申し上げてしまい申し訳ありません。父は根っからの鉱山好きですので度が過ぎてしまったようですわ」

ヘルミーネ様はそういい終えると、ニコリと微笑む。

その朗らかな笑顔のおかげか、漂っていた緊張感が薄れていく。

アレクセイ様も仕方ないといった様子で、口を開いた。

「ヘルミーネの言う通り、男爵は鉱山のことになると夢中になるようだ」

その声はやや固かったけれど、表情は先ほどまでより穏やかになっている。

ヘルミーネ様はそんなアレクセイ様の様子を目にして満足そうに微笑むと、立ち上りゆっくりもアレクセイ様の元に近付いて来る。

その後ろを、ワインとグラスのトレイを持ったヒルト家の使用人が付き従っていた。

どうやらヘルミーネ様自ら、アレクセイ様にワインを給仕するようだ。

それにしても、随分と準備が良くて驚く。
いつの間に指示を出していたのだろう。

ヘルミーネ様はアレクセイ様の斜向かいの位置で立ち止まると、親しげな笑顔を浮かべて言った。

「アレクセイ様、あまり怒ってばかりでは気疲れしてしまいますわよ」

「怒ってなどいない」

アレクセイ様は素っ気無く答えると、ヘルミーネ様からグラスを受け取る。

そのグラスに、ヘルミーネ様が身に纏う真紅のドレスと同色のワインが、スルリとグラスに注がれていった。

何ともいえない気持ちでその光景を目にしていると、ヘルミーネ様は視線に気づいたのか私にもワインを勧めてきた。

「ラウラ様も是非味わってくださいませ」

「ええ、ありがとう」

ヘルミーネ様は私の席の隣に移動して来ると、左手にグラスを持ち、右手でワインボトルを傾け注ぐ。

その時、フワリとエキゾチックな香りが鼻腔を掠めた。
この香りは……さっきアレクセイ様が纏っていた残り香と同じ。

「これはアレクセイ様がこよなく愛するワインですのよ」

「……そう」

ヘルミーネ様の囁き声と香水と、濃厚なワインの香り。
眩暈がしそうだった。
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