強引ドクターの蜜恋処方箋
玄関のチャイムを押すと、すぐに明るい声が扉の向こうに響いた。

「はぁい!いらっしゃい。今か今かと待ってたわよ」

母も少し緊張しているのか、頬が紅潮していた。

いつもよりお化粧もちゃんとしてるし。そんな母を見たら少し緊張がほぐれた。

「初めまして。松井雄馬です」

「こちらこそ、今日は急にお呼び立てしちゃってごめんなさいね。こんなところまでわざわざ来てくれてありがとう」

松井さんは一礼すると、「失礼します」と言って玄関に入った。

母は彼の少し後ろを歩きながら、私の方を振り返ると口パクで「イケメンじゃない」といたずらっぽく笑った。

もう!

恥ずかしいんだからっ。

思わず頬を膨らまして母を軽くにらんだ。

私と松井さんがリビングに入ると、

「こんにちわ。チナツちゃん、ご無沙汰だね」

既に水谷先生、いや、母の彼は到着してた。

ソファーにゆったりと腰掛けていた先生は、右手を挙げてゆっくりと立ち上がった。

「このたびは、母がお世話になります。よろしくお願いします」

私は先生の前に歩み出ると頭を下げた。

心からの言葉だった。

母を託すにはどんな人にも変えられないくらい信頼できる人。

温かい眼差しで、母の方を見て微笑む先生に全てを任せられるとあらためて感じた。

「こちらがチナツちゃんの彼氏だって?」

先生は、松井さんの方に視線を向けた。

「今日は、僕までお招き頂きありがとうございます。松井雄馬です。よろしくお願いします」

松井さんは、先ほどの緊張をみじんも感じさせないくらい堂々と落ち着いた立ち居振る舞いで水谷先生に挨拶をした。
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