強引ドクターの蜜恋処方箋
「何もないです。ただ、ナースセンターだったから普段の私とは違ってただけじゃないかな」

「そうか?そんな風には見えなかった」

「・・・そんなことないです」

言ってしまってから少し強情だったかなと反省する。

雄馬さんはしばらく黙って考えているようだった。

嘘の下手な私だから、雄馬さんには何でもお見通しなの?

でも、本当の気持ちなんて言えないよ。

そんなこと言ったら、雄馬さんに面倒臭い奴って思われるかもしれない。

「来週の土曜日、午前中で仕事が終わるからそっから2人で遠出しよう」

「え?」

それは、突然の提案だった。

普段忙しく、そんな先の予定が決めれない雄馬さんにとってはあり得ないこと。

「よほどの急患が入らない限り、俺の仕事も一段落ついてるから一泊ぐらいできると思う」

一泊ってことは、旅行ってことだよね?

「本当?」

雄馬さんと旅行なんて初めてだった。

それに、来週の土曜って・・・。

「じゃ、決まりだな。近場の温泉宿でも予約入れとくよ」

心臓が飛び跳ねた。

しかも温泉旅行だなんて夢みたいだった。

2人で朝までゆっくりできる時間。この間の約束、ちゃんと覚えてくれたんだ。

雄馬さんの横顔を見つめながら、忙しいのにいつも私のことを大切にしてくれる。

その優しさが私をしっかりと抱きしめてくれているのに、それだけで十分じゃない?

私は一体それ以上に何を求めてるんだろう。

自分自身の中に住み着いた嫉妬の塊を早く消し去ってしまいたい。


その夜更け。

なかなか寝付けなくて、雄馬さんの寝息が聞こえるベッドからそっと抜けだし一人でベランダに出た。

空気が澄んでいるのか、夜空にはいつもよりもたくさんの星達が瞬いている。

オーストラリアで、母も水谷先生に支えられてがんばってるんだろうか。

『心の声に耳を傾けて。素直な気持ちに身を任せればきっと何事もうまくいくわ』

母の声が夜空から降ってきたような気がした。

そうだね。

モヤモヤ考えてたってしょうがない。

もっと自然に、自分の気持ちに素直になってみてもいいかな。

雄馬さんにどう思われたとしても。

私は夜空に頷くと、静かに窓を閉めた。







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