強引ドクターの蜜恋処方箋
その翌日は、イギリスに渡ったマリから少し早いクリスマスカードが届いた。

マリはロンドンの有名家具店で働きながら、同棲中の彼ともうまくいってるようだった。

そして、マリのお腹には既に子供がいて、来年の春、彼と結婚すると書かれていて驚く。

最近、驚くことが多いわ。

でも、こういうのもマリらしいと思った。

思ったままに行動して、幸せを掴んでいく。

私もようやく自分の気持ちに素直に進めるようになったけど、マリのスピーディさには叶わない。

私にはこれくらいゆっくりいく方が性にあってるかな。

最後にマリはこう締めくくっていた。

『雄馬さんと一緒に暮らし始めたんだって?やるじゃん、チナツも!結婚が決まったらすぐに知らせてね』

結婚・・・か。

雄馬との生活は幸せすぎるくらい幸せだった。

でも、なぜかまだ結婚の話は一度も出たことがない。

雄馬が忙しすぎるっていうのもあるけれど。

私からも結婚の話は切り出す機会がなかったこともある。

これも、母の言うように、素直な気持ちに身を任せてればいいように進んで行くんだろう。

とにかく、今がとても幸せだからそれ以上望んだら贅沢だわ。

私は一人頷きながら、マリの手紙を封筒にそっと戻した。


明日は久しぶりに母に会える。

母とは15時にT大学病院前のカフェで待ち合わせて、夕方17時に水谷先生を車でピックアップした雄馬さんと合流する予定になっていた。

合流した後は雄馬さんの車で移動して、予約しておいたレストランで一緒に夕食をとる。

話したいことがたくさんあり過ぎて、何から話せばいいんだろう。

看護学校のこと、実習のこと、マリのこと、そして雄馬さんとのこと。

一緒に暮らしてるだなんて言ったら、きっと腰ぬかしちゃうわね。

今まで真面目すぎるくらい真面目に生きてきた私がお付き合いしてる男性と同棲してるなんて。

私はポットにお湯を沸かして紅茶を入れた。

沸き立てのお湯を注いだ紅茶は白い湯気を幾重にも立ち上らせている。

ラジオを点けてソファーに座った。

ラジオからは明日の天気予報が流れていた。

『・・・明日は、冬型の気圧配置になっており、低気圧が発生するため雪が断続的に降る場所もありそうです。雪の降る地域は路面が滑りやすくなる恐れもありますのでお気を付け下さい』

明日は寒くなりそうね。

雪か。

カレンダーを見るといつの間にか12月に入っていた。

雪が降ってもおかしくない季節。

誰かが今年の冬は寒くなるって言ってたっけ。

ソファーから腰を上げると、紅茶を持ったまま窓辺に立った。

夜景が冷たい空気の中で瞬いている。

早く暖かい春が来て欲しいな。

両手でティカップを包んだ。
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