紅の葬送曲


「あら、兄妹喧嘩中かな?」






聞き慣れない声に、声がした方に視線を向けるとそこには羽取さんと一人の女の人が立っていた。





「何で貴女が……。それに、部屋には鍵がかかっていたはずですけど……」





「んー、才暉にピッキングしてもらったのよ。普通に尋ねてきても会えないかもしれないからね」





と非常識なことを言うのは藤邦家の当主──アリス様だった。





「……ピッキングは犯罪ですが?」





「大丈夫大丈夫。最近はしてないけど、昔はよくハッキングしてても捕まらなかったから」





親指をぐっと立てて笑うアリス様に、僕は呆れてものが言えなくなる。





この人が天才的頭脳を持っているのは分かってる。





でも、こんな常識外れの人が僕達の実父である切碕が人を殺してまで気を惹きたかった人とは思えない。





現に彼女は部屋にずかずかと入ると、紅緒の隣に座って寛いでいる。






……一般常識を持っているなら有り得ない行動だ。






「紅斗、アイツに一般常識を求めるな。昔からアイツは一般常識がない」




ふと、僕の心を呼んだかのように羽取さんがため息を吐きながら肩を叩いてきた。





その一般常識を持っていない人に付き合う羽取さんもなかなかの強者だと思うんだが……。





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