紅の葬送曲
「志摩さん……」
志摩さんはにっこりと笑うと握り締めていた私の手を開いて、そっと撫でる。
手の平は強く拳を握り締めたせいで、爪が食い込んだ痕が残っていた。
「貴女は優しい人。だから、凌君は貴女を傍に置いて、生きるように促した。……凌君は貴女が貴女自身を責めることを望んでないよ」
志摩さんはやっぱり藤邦さんに似てる。
こういう優しいところは彼女から受け継いだものだろう。
「つか、摂紀は?今日はアイツも来るって言ってたよな?」
ふと、羽取さんが眠たそうに背伸びをしながら欠伸をした。
え、摂紀お兄ちゃんも来るの?
そんなことを思っていると執務室のドアがノックされ、返事をする前にそのドアが開いた。
そこには摂紀お兄ちゃんが立っていた。
「お、摂紀来たな。おせぇよ」
「ごめんごめん。いやさ、紗也を撒くのに時間がかかって……」
紗也?
摂紀お兄ちゃんの言葉から聞き慣れない女の人の名前が聞こえて、頭を捻る。
でも、私の疑問をよそに羽取さん達は楽しそうに笑っている。