紅の葬送曲
……多分、摂紀お兄ちゃんはその≪紗也≫さんという人が好きなんだと思う。
そうじゃなかったら、こんな風に悲しそうに笑ったりしない。
妹のようにしか思えない、というのも多分嘘だ。
確信はないけど、そんな感じがした。
「玖下さん、私達のことなんか良いから幸せになってよ!それが私やお父さん……、お母さんの願いなんだから」
詩依さんが涙を目に滲ませながら訴えるけど、摂紀お兄ちゃんは首を縦に振ろうとはしなかった。
「詩依、僕のことはもう良いよ。それより、紅緒に用があるって言う子を連れてきたんだ」
摂紀お兄ちゃんは話をはぐらかすと、私の方を見た。
「私に?」
「うん。ほら、入っておいで」
摂紀お兄ちゃんに促されてドアの影から現れたのは汀様だった。
彼とは寿永隊長が行方不明になる日に会った以来だから数日振りになる。
この数日で汀様は窶れていて、目の下には青黒いクマも出来ていた。
汀様が私に何の用だろうか?
はっきり言って、私は汀様に嫌われている自覚がある。
だから、言われるのは多分あまり良いことではない気がする。