紅の葬送曲
病室には私と紅斗だけが残っていた。
「紅緒、何かあった?」
「え、何で?」
「瀕死の紅緒を確保したとき、君の体には男物のパーカーが掛けられてた。汀君のじゃない、別の男のものが」
紅斗は椅子から立ち上がると棚からそのパーカーを取り出して、上半身を起こした私の膝の上に置いた。
グレーの何処にでもある普通のパーカー。
でも、それは確かに私と汀様を助けてくれた人が着ていたものに間違いなかった。
「……それに、眠っていた君が譫言で言ってたんだ。『寿永隊長……、助けてくれたんですね』って。紅緒、凌君に会ったの?」
紅斗は赤い目に戸惑いを浮かべながらじっと見てきた。
私と汀様を助けてくれたのは寿永隊長かもしれない。
でも、確証がない。
あの時の私は意識が朦朧としていた。
汀様は見ていたかもしれないけど、その場に彼がいないから確認しようがない。
「……分からない。でも、助けてくれたのは寿永隊長な気がする。確信はないけど」
パーカーをぎゅっと握ると、いつも嗅いでいた寿永隊長の香りがした。
その香りはこれが彼のものだという証拠なのに、私は確信を持てなかった。
彼が私の前に姿をまた現さない限り私は彼の生存は信じられない。
彼が死んだとは思えないし、生きているとも思えない。
正直、自分でも自分の気持ちが良く分からなかった。