一途な小説家の初恋独占契約
「お待ちください。清谷出版の窪田様がいらっしゃったら、お部屋までご案内するよう申しつけられております」
念のためと身分証の提示を求められてから、部屋の鍵を渡された。
「いいんですか?」
「ええ、お客様のご要望ですから。お部屋までご案内します」
「いえ、大丈夫です」
荷物もないのにわざわざ案内してもらうのは気が引けて、一人でエレベーターに向かう。
さっきエレベーターに乗り込むのを申し訳なさそうに断った案内の人は、今度は笑顔で迎えてくれた。
エレベーターも一人だった。
人気のない35階へ下り立つ。
キョロキョロと辺りを窺っていると、人目を引く美人が歩いてきた。
「鎌石さん……」
大手出版社、大塚出版の敏腕編集者だ。
彼女も私に気づいたようで、気だるげに歩いていた足を止め、私を凝視した。
次の瞬間、私は彼女にエレベーターの中に押し戻されていた。
「キャッ! 何するんですか!?」
腕を掴まれ、壁に押し付けられる。
「清谷書房の窪田汐璃って、あなたね?」
「そうですが、それが何か……あっ」
エレベーターの扉が、静かに閉まった。
扉に向かおうとする私を、鎌石さんが阻む。
「あなた、何なの? 営業だなんて言っておいて、本当は翻訳者だったの? でも、調べても実績が見当たらないわ。翻訳は、他の名前で仕事をしているの?」
「え? 私は、学生時代にアルバイトしてたくらいで、翻訳の仕事なんてしてません」
「とぼけないで! 素人が、どうやってジョー先生に取り入ったの? 翻訳って言うのはね、ただ日本語にすればいいってもんじゃないのよ。学校で習っただけで英語ができる気にでもなってるんだったら、大間違いもいいところ!」
「そんなつもり、ありません! 一体、いきなり何の話なんですか!?」
そこで、急にエレベーターが下降しだした。
他のフロアで使う人がいたのだろう。
鎌石さんが、私の腕を離す。
その代わりとでも言うように睨みつけた視線だけで、私は縫いつけられたように動けずにいた。
密室に、荒いだ二人の呼吸が響く。
念のためと身分証の提示を求められてから、部屋の鍵を渡された。
「いいんですか?」
「ええ、お客様のご要望ですから。お部屋までご案内します」
「いえ、大丈夫です」
荷物もないのにわざわざ案内してもらうのは気が引けて、一人でエレベーターに向かう。
さっきエレベーターに乗り込むのを申し訳なさそうに断った案内の人は、今度は笑顔で迎えてくれた。
エレベーターも一人だった。
人気のない35階へ下り立つ。
キョロキョロと辺りを窺っていると、人目を引く美人が歩いてきた。
「鎌石さん……」
大手出版社、大塚出版の敏腕編集者だ。
彼女も私に気づいたようで、気だるげに歩いていた足を止め、私を凝視した。
次の瞬間、私は彼女にエレベーターの中に押し戻されていた。
「キャッ! 何するんですか!?」
腕を掴まれ、壁に押し付けられる。
「清谷書房の窪田汐璃って、あなたね?」
「そうですが、それが何か……あっ」
エレベーターの扉が、静かに閉まった。
扉に向かおうとする私を、鎌石さんが阻む。
「あなた、何なの? 営業だなんて言っておいて、本当は翻訳者だったの? でも、調べても実績が見当たらないわ。翻訳は、他の名前で仕事をしているの?」
「え? 私は、学生時代にアルバイトしてたくらいで、翻訳の仕事なんてしてません」
「とぼけないで! 素人が、どうやってジョー先生に取り入ったの? 翻訳って言うのはね、ただ日本語にすればいいってもんじゃないのよ。学校で習っただけで英語ができる気にでもなってるんだったら、大間違いもいいところ!」
「そんなつもり、ありません! 一体、いきなり何の話なんですか!?」
そこで、急にエレベーターが下降しだした。
他のフロアで使う人がいたのだろう。
鎌石さんが、私の腕を離す。
その代わりとでも言うように睨みつけた視線だけで、私は縫いつけられたように動けずにいた。
密室に、荒いだ二人の呼吸が響く。