一途な小説家の初恋独占契約
「……本当にそんなふうに思ってるんですか? 直島さんは、小説そのものを罵倒していることが分からないんですか!?」
「お前こそ、あいつに惑わされてるんだ。
お前みたいな初心な女を誘惑するなんて、あいつにとっちゃ簡単なことなんだよ。どうしてそれが分からない?」
「……確かに、ジョーにとっては簡単なことなのかもしれません」

小説の中のヒーローみたいに、実際に女性を口説けるのかもしれない。
私にだって、たくさんの甘い言葉をくれた。

「でも、直島さんがさっき言ったことは許せません! ジョーは、適当な言葉を並べただけの作品なんて作ってない。取り消してください!」
「何をムキになってるんだよ」
「訂正してくださいっ!」

直島さんに食って掛かる。
私の勢いを止めようとしたのか、突き出された両手を振り払うと、直島さんの形相が変わった。

「お前っ!」

直島さんが右手を振り上げる。

思わず、ギュッと目を瞑った。

「……」

……何も、起こらない。

「汐璃! 大丈夫か!?」

恐る恐る目を開ける。
直島さんを押さえ込んだ、ジョーがいた。

相当急いでいたのか、まだ髪から雫が垂れていて、Tシャツに染みを作っていた。
あり合わせで着てきたのか、いつもジャケットを欠かさなかったのに、Tシャツとジーンズというラフな格好だ。

「大丈夫か!? 怪我はないか? 何があった!?」
「お前っ! 離せ! 離せよっ! 痛い……痛いっ!」

力が強いのか、直島さんが苦しそうに呻く。

「……ジョー、離してあげて」

ジョーは、忌々しく直島さんを睨みつけ、力をグイッと込めてから、手を離した。
赤くなった手首を、直島さんが涙目で擦っている。

「汐璃、大丈夫か?」
「触らないで!」
「汐璃……?」

私を抱き寄せようとするジョーから、一歩退き、キッとジョーを睨み上げる。
ジョーは、見上げると首が痛くなるほど大きくなってしまったくせに、子どものように傷ついた顔をしていた。
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