一途な小説家の初恋独占契約
「分かってるよ、汐璃。僕も同じだ。僕も一生懸命書いた。毎日、何かあるたびに、汐璃にどう書こうって思った。毎日だ。汐璃の返事が待ち遠しくて、ポストへ走った」
「……私も同じ」

ふふっと笑って顔を覗かせた私に、ジョーは柔らかく微笑み、頬を覆った髪を払ってくれた。

くすぐったさに目を瞑ると、ジョーの手が耳の後ろで止まった。
それなのに、頬には柔らかく何かが当たった感触がある。

「……何?」

ジョーは、微笑んだままだ。

ちょっととは言え、泣いてしまったせいか、ぼうっとしている。
いつの間にか仰向けになった私を、ジョーが真上から見下ろしていた。

……本当に、ジョーの書く小説のヒーローみたい。

逞しい腕に囲まれ、端整な顔に優しく見つめられていると、物語から出てきた人ではないかと錯覚をしてしまう。

さっき触れたものを確かめるように自分の頬に当てた私の指に、ジョーの太い指が絡まる。
抱き上げられたときに感じた胸も肩も硬かったのに、指先は驚くほど柔らかい。

その柔らかさのまま優雅にジョーの指が私のそれを引き上げる。

長い睫毛を伏せたジョーは、そっとそこに唇で触れた。

「ジョー!?」

驚く私を黙らせるようにジョーは顔を近づける。

思わず目を瞑った私の頬に、さっきよりも確かに、柔らかく触れるものがあった。

目を開けると、ジョーが照れたように微笑んだ。
温かな吐息が私の鼻にかかる。

「キミの文字が滲むたびに、キミの傍に行きたくて堪らなかった。もし、僕がキミの隣にいたら、キミを抱き締めて、その頬にキスするのにって……」

私の指を離したジョーは、その大きな手のひらでそっと私の髪を撫でる。

「……頬は、あのとき許してくれたものだと思ってたんだけど……ダメかな」

自由になった手で、そっと自分の頬を撫でる。
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