王子様とハナコさんと鼓星

「華子…」

「あ…」

さ、聡くん。顔を伏せ凛太朗さんの腕を掴む。


いま、2人を会わせるわけにはいかない。なんで、こんな時に。最悪のタイミングだ。

掴んだ腕を引き、人混みに紛れようとするが凛太朗さんは動こうとしない。聡くんだけを見つめ、私の腕を振り払う。

一歩、二歩、三歩…と、聡くんに詰め寄った。


「こんばんは、森山さん」

聡くんが私を見る。その瞳に込められた怒り。顔を伏せ、その威圧感に息を飲む。


「こんばんは。桐生さん。このビルにご用意ですか?」

「白々しいやり取りはいいよ。森山さんに用事があって来ただけ。その理由は分かっているよね」

「…華子から聞きましたか。裏切り者」

「俺が問い詰めたんだよ。と、言うか…華子1人で隠しきれるような事じゃない。黙っていろなんて、出来ないに決まっているよね。普通に考えて」

「確かに、そうですね。安易でした。それで…俺に慰謝料でも払えと言いたいのですか?あれは、華子が勝手に階段から落ちた事です。俺に過失はない」


凛太朗さんを目の前に、聡くんは堂々とそう言い、ポケットに手を入れた。
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