王子様とハナコさんと鼓星


***


その場所に行くのにはマンションからは少し時間が掛かる。タクシーで行けば大した時間は掛からないけど、スマホ1つでマンションを出た私にはタクシーやバスに乗るお金はない。


ひたすら早足で目的の場所に向かう。

人の流れに呑まれるようにただ進んだ。早く凛太朗さんに会いたい。その事しか考えられない。

赤信号がもどかしい。私達の邪魔をするように、何度も赤信号に足をとられてしまう。


それでもただ、ただ…前に進み、目的の店に入った。


「いらっしゃいませ」と、声を掛けられ軽くお辞儀をしてから凛太朗さんの姿を探す。


店内の一番奥。入り口から見えにくい席に凛太朗さんの背中が見えた。


「凛太朗さん」

駆け寄り、声を掛ける。ゆっくりと背後を振り返り、私に久しぶりの笑顔を見せてくれた。


「お疲れ様。急に呼び出してごめんね。来てくれてありがとう。取りあえず座って」

「は、はい」

普通の態度。こんな事になる前と変わらない態度だ。
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