王子様とハナコさんと鼓星
「あぁ、困ったな。なんか今日はもう帰りたいかも」
「ダメですよ。針谷さんが探していますよ」
この前もこうやって、私のところに来て怒られていた。私も会社だと言うこと理解してくれと…注意されたばかり。
会いに来てくれるのは、嬉しい。家に帰れば会えけど、会社で会う時とまた違う気持ちになるから。
「はぁっ…分かった。行こうかな。ネクタイなおして」
「は、はい」
凛太朗さんは私が前に一ノ瀬くんのネクタイを直してあげた事を根に持っているらしく、こうやって求めてくる。
手を伸ばして、形良く整える。すると、満足顔で笑った。
「じゃあ、戻るね。また家で。今日は遅くならないよ」
「はい」
トイレの外に人がいないか確認してから凛太朗さんを見送る。
ほぼ、毎日こんな事をしているけれど、毎回ハラハラしている。でも、意外と楽しんでいる私もいる。
その度に、彼の事をもっと好きだと言う気持ちは膨れ上がるばかり。
さっきのスタッフが言っていた。凛太朗さんと結婚出来るなんて幸せだと。
その通り。私は幸せかもしれない。この先、まだまだ大変な事はあると思うけど…
この幸せだけは、ずっと変わらず私のそばにいてほしい。
そう願い、そう願うひとときだった。
FIN
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