王子様とハナコさんと鼓星


「社長…あ、あの…これは、その」


「言い訳なんていいから。二人のことは申し訳ないけど、支配人からもつい昨日辞めた人からも話しをきいている。今日の会議で2人の左遷が決まったから。その事を話して気持ちを改めるなら撤回しようと思ったけど、どうやら無理そうだ。左遷先では部署移動して、新人に戻って、その時の気持ちや、一から道徳を学ぶといいさ」


冷たく最後にそう言い放ち、私に近付いて散らばった荷物を拾っていく。

鞄に押しつめ、それを握らせると社長はポケットに手を入れ去っていった。

あっと言う間の出来事で、いまいち理解が出来ない。鞄を胸に抱くと志田さんは顔を覆い泣き崩れる。


その姿に慰めようなんて情は湧いて来なかった。呆然と2人を眺めても冷めた感情しか浮かんで来ない。

そんなことより、社長の方が気になる。

コクリと頭を深くさげ、社長の背中を追う。裏口に向かったのか、エレベーターに向かったのか。どっちだろうか。

迷った末にエレベーターに向かうとそこには、エレベーターを待つ社長の姿があった。

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