副社長と秘密の溺愛オフィス
 明日香と弟の翼ふたりが住むマンションは、ご両親が亡くなる前に購入したそうだ。ここで両親亡き後、きょうだいふたり、支え合いながら生きてきた大切な場所。

 決して広くはないが、温かみがある。カレンダーに書かれているお互いの予定、リビングのテーブルに無造作においてある新聞。生活感あふれる空間だったが、なぜか落ち着く。この空間も明日香の一部分だからだろうか。

 おそらく普段は使われていない、蓋付きの湯飲みでお茶が出された。弟はそれまで我慢していたことを、ここぞとばかりに姉――俺に尋ねる。

「いったいあの事故の後、何がどうなって甲斐さんと婚約なんて話になったんだ。僕だって、ずいぶん心配したんだぞ」

「あぁ――ゴメン」

 明日香が口を挟もうとしているけれど、視線を投げかけて止めた。

「実はあの事故の後、お互いがお互いのことを大切に思っていることに気がついたんだ。あんなことがあって、ふたりとも離れていることが怖くなった。だから結婚することにした」

「そんな、急に――」

 いきなりの姉の告白に、弟は戸惑いを隠しきれない。チラチラと視線を明日香に向けて、姉の相手となる男を品定めしているようだ。
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