副社長と秘密の溺愛オフィス

⑫膝枕の告白

紘也さんが口にした言葉が脳内で再生される。

なにが『お互いがお互いを大切に思っていると気がついたの』だ。

その場しのぎの口から出まかせで言ったのだろうけれど、真実はわたしの片想いだ。彼の思いもわたしと一緒ならどんなにいいだろうか。
 
まぁ、夢のまた夢だろうけれど。

 タクシーに乗る気にもならず、電車を乗り継いでマンション戻る。ふとこのまま帰っても気持ちが落ち着かないと思い、駅から回れ右をしてチョコレート専門店を目指す。一度行ってみたいとは思っていたけれど、値段と敷居が高く訪れたことがなかった。しかし今日みたいな日は、高級チョコに精神安定を求めてもいいだろう。

 チョコレートに思いをはせると、意識が少しはそっちに持っていかれて足取りが軽くなった。店の前に到着するころには、綺麗なチョコレートで脳内が占拠されていた。我ながらおめでたい。

「――紘也さん?」

 あ、わたし? 

 一瞬遅れて振り向いた。

会社などでは気を張っているので、最近は瞬時に反応できるようになっていたが、今は完全にオフで気を抜いていた。
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