副社長と秘密の溺愛オフィス
「たしかにそうだろうな。これまで姉ちゃん、全然大地さんの気持ちに気づいていないみたいだったのに、わかってたんだ?」 

――やっぱり。鈍い明日香のことだ。弟さえ気がついていることを知らなった可能性が高い。今はその鈍さに感謝する。

「まぁね。とりあえず――翼は応援してくれるわよね?」

「まぁ、真面目姉ぇちゃんがそこまで言うんだから。弟の僕としては応援するしかないでしょう。今まで俺のせいで全く恋愛できなかったんだから」

「そんなこと気にしなくてもいいのに」

 おかげでまっさらな彼女を手に入れることができた。グッジョブだ、弟。

「用事は終わったの?」

「あぁ、鍵を届けるだけだから」

「そう。あ、そうだ。これ」

 バッグに忍ばせておいたワインを取り出し見せる。

「うぉ! それってすごく手に入れるの難しいんだ。もしかして――副社長から?」

 明日香から以前弟の翼はバーテンダーのアルバイトをしていると聞いた。酒の種類にも詳しく、本人もいける口だと。

「副社長だなんて、他人行儀。お兄さんって呼べばいいのに」

 ここでしっかり弟を味方につける作戦にでる。

「うわ~僕に兄貴か、しかもこんなセンスのいいもの土産に持たせるなんて、やっぱセレブは違うな」

 ワインボトルを眺めながら、ほくほくとした笑顔を見せている。
「今度彼の知っているお店に連れて行ってもらえるように聞いてみる? もちろん一見さんは無理な店ばかりだけど」

「本当に!? やったー!」

 きらきらと目を輝かせる翼を見て、新しい弟はかわいいものだと思う。普段癖のある幹也を相手にしている分、余計に。

「僕、次会ったらお兄さんて呼ぶ」

「じゃあ、あなたも翼と呼んでもらう?」

「いいね~ねぇちゃん。早速、これいただこう。退院祝いもまだだったし」

 いそいそとワイングラスを取りに行った翼に、固く誓う。

 君のタイ背うなお姉さんは、俺のすべてをかけて幸せにするからな――と。
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