副社長と秘密の溺愛オフィス
 思わず俯きそうになったとき、紘也さんが苦しそうに手招きをしている姿が目に入る。

「ど、どうしたんですか? 苦しいんですか?」

 慌てて近づくと、自分の横の床をトントンと叩いた。

「え? 何?」

「座って」

「え、はい。これでいいですか」

 彼の隣に腰を下ろすと、間髪入れずに彼がゴロンとわたしの膝に頭をのせてきた。

「ちょ、ちょっと」

「――硬いな」

 焦るわたしなど気にも留めず、彼はわたしの膝の上で頭をもぞもぞと動かす。しばらくするといいポジションを見つけたみたいで、動かなくなった。

 はぁ……本当に自由だな。 

 わたしの膝の上で目を閉じている紘也さんを見る。見かけは完全にわたしなのだけれど、わたしには大きな彼が甘えてきているように見えて少しほほえましい。

 わたしにとって入れ替わった後も、彼は甲斐紘也のままだ。女性らしくドレスアップをしていても、元の彼と同じように感じてしまう。

 なんとなく頬を撫でると、気持ちよさそうに口元を緩ませた。

 かわいい……かも。

 嫌がっていないのがわかったので、撫で続ける。なんだか癒されるような気持ちになるのはどうしてだろうか。

「これ、持ってきた。大事なもんだろう?」

 手渡されたのはわたしの部屋に飾っていた家族写真だ。

「あ、ありがとうございます」

 毎日眺めていた写真だ。事故の後自宅に戻らずにいたのでそのままになっていたのだ。〝いい歳して〟と思うけれど、こんな状況下に置かれているわたしにとっては、両親の写真を眺めることで不安が幾分和らぐような気がした。

「心配しなくていい」

「え?」

 じっと写真を眺めているわたしに、唐突に彼が口を開いた。
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