副社長と秘密の溺愛オフィス

⑮まちがった婚約

 あれから三週間。

 わたしは乾明日香としての日常を取り戻していた。

 紘也さんとわたしは、監禁さえた際の怪我の程度も軽く、また念のの為受けた脳波などの検査も異常なしだった。

 元に戻ったといえど、わたしたちに起こったこの数週間の不思議な現象の間にできた新しい関係は、入れ替わった後も継続中だ。


 故にわたしはまだ〝甲斐紘也〟の婚約者だった。

 事件のことや、入れ替わりの間に色々とあった不都合を解消するために時間をついやしているうちに、話し合いの時間もとれず、あっという間に時間が経過していた。


 事件のことだが、警察に引き渡された犯人からは、依頼者が特定できず結局真の犯人はわからずじまいだ。

「すまない。おそらく大乗の奴が一枚噛んでいるのは間違いないんだけれど、証拠がないかぎり追求することができない」

「そうですか」

 あの日わたしを呼び出した大乗専務が何か知っているはずだと思う。けれど彼は頑なにそれを認めなかった。それどころか、事件に巻き込まれるのには紘也さんにも非があると言い出したのだ。犯人につけ入る隙を与えたと鼻で笑ったのだ。


 これ以上はどんなに追及してもどうにもならないと判断した。それよりも専務の余裕の態度の方が気になる。まだ何か企んでいるのではないだろうか?

 そしてその嫌な予感は見事的中した。

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