副社長と秘密の溺愛オフィス
 次に気がついたときに、自分の手を握る紘也さんの姿が目に入った。頭を垂れたままの彼はわたしが目覚めたことにまだ気がついていないみたいだ。

 右手に力を入れると、彼がはじかれたように頭を上げた。驚いた顔をした後「明日香?」とわたしに呼びかけた。

 小さくうなずくと、彼は「はぁ」と大きく息を吐いてわたしの手をぎゅっと握りしめ絞り出すようにして言った。

「……た。……よかっ、た」

 握りしめられた手から、彼の心配が伝わってきた。

「明日香と連絡がとれなくなって、心配で副社長室に戻ったら机の上のカメオが目に入ったんだ。それでデスクの上のメモに気がついた。あの場所がわかって本当によかった」

 紘也さんがわたしの手を握ったまま、安堵のため息をついた。

 そしてほどなくして、医師が駆けつけてきて、色々と確認をする。そのとき医師がわたしのことを〝乾明日香〟さんと呼んだ。

 そうだ、わたし……元の体に戻ったんだ。

 傍らに立つ紘也さんに目を向ける。さっきは混乱していたのでそこまで気が回らなかったが、今病室にいてわたしを心配そうに見つめているのは間違いなく〝甲斐紘也〟の姿をした〝甲斐紘也〟だった。
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