副社長と秘密の溺愛オフィス
 その言葉を聞いた瞬間、身体の力が抜け全身が凍り付いたように動かなくなった。

 手に持っていたポーチをよく落とさなかったものだと思う。
   
――わたしたちの婚約が間違ってる……。
  
 たしかにわたしたちの婚約は、やむにやまれぬ事情があってのことだ。それが正しいだなんて、わたしだって思っていない。

 けれどそれを紘也さん本人の口から聞いたことで、現実を目の前につきつけらたようで胸が引き裂かれるようだ。

 わかっていたことじゃない。傷つく資格さえないくせに。

 ふたりの身体が元に戻った後、いつかは向き合わなくてはいけない現実。ずっとこのままではいられないことくらいわかっていたのに。

 目頭が熱くなり、涙が滲む。なんとか音を立てないように奥歯を食いしばった。
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