副社長と秘密の溺愛オフィス
 紘也さんは部屋の鍵を開けると、わたしを先に中に入れた。この部屋を出てから二週間も経っていないのに、懐かしさを感じてしまう。それほどわたしにとってこの部屋での生活は、印象深くそして幸せだったことを思い出す。

 玄関に立ったまましばらく思いをめぐらせているわたしは、背後から大きな腕に包み込まれた。

 紘也さんはわたしの首筋に顔をうずめて、強く抱きしめながら言った。

「おかえり、明日香」

「……っ、でも」

 本当に彼についてきてよかったのだろうか。勢いで自分の中にある彼への気持ちが押さえられなくて、彼の手が離せずにここまできてしまった。

 逡巡するわたしに彼がもっと腕に力を込めた。

「おかえりって言われたら、ただいまって返す。習わなかった?」

 少しからかうように笑いを含んだ声。

「いいから、言って。〝ただいま〟って」

 乞うように言われて、「ただいま」と口にする。自分でもおどろくぐらい小さな声だったが、その言葉を発した瞬間に胸の中にじんわりと喜びが広がった。

 わたし、帰ってきたかったんだ……ここに。

 声にしてはじめて気がついた。いや、本当はずっとそう思っていたけれど、胸のずーっと奥に押し込んで気がつかないふりをしていた。

そうしなければ、寂しさできっと呼吸するのも苦しかったに違いない。
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