副社長と秘密の溺愛オフィス

③こんにちは、わたし

--濃い霧の中をひとりでずっとさまよっている。周りが見えなくて心細い。

「どうしよう・・・・・・、誰かいませんか?」

 わたしの呼びかけに誰かが答えた。

「い・・・・・・乾っ!」

「副社長?」

 必死になって、声の方に走る。霧の中で今頼りにできるのは、副社長の声だけだ。

 手を延ばして、必死で彼を探す。

「乾!」

 はっきりとした声が聞こえた瞬間、パッと目の前が開けた。



 しかし目の前には副社長の顔ではなく・・・・・・。

「え、ど、どうして、いやぁーーーーー!」

 地響きのような声を上げるわたしの口を目の前の〝わたし〟がふさぐ。

「シー! いいから落ち着け」

 どうやって! この状況で落ち着ける人なんて――。

 目の前にいるこの人ぐらいだろう。

 病院着を着てわたしの姿をしているこの人は、わたしのように取り乱してはいない。

 真剣な顔の自分の姿を見て、わたしは息をのんだ。

 いったいこの人は誰だろう。

 しかしそう難しく考えなくてもわかった。

 わたしが目の前にいて、わたしが副社長の姿をしているのならば、目の前の相手は彼に違いない。
< 22 / 212 >

この作品をシェア

pagetop