副社長と秘密の溺愛オフィス
「もしかして、副社長ですか?」

 わたしの姿をしたその人は、わたしの口をふさいでいた手をゆっくりと退けた。

「そうだ。やっぱり乾が俺なんだな」

 なんだかもう頭が混乱して、何が何だかわからない。

 目の前にいるわたしが、副社長で。今ベッドに横になっている副社長がわたし。

 わたしの姿をした副社長が、髪をかき上げた。

 あ、そのしぐさ……。

 いつも彼がなにか面倒なことに直面したときにする癖だ。目の前にいる人物は、姿はわたしだが、間違いなく中身は副社長だ。

「俺たち、入れ替わったみたいだな」

 ベッドに腰かけた副社長が、信じたくない事実をわたしに突きつけた。

「そ、そんな。バカな話あるわけ……」

「そうだな、俺も夢であってほしい」

 大きなため息をつくその姿で、副社長もこの状況に困り果てていることがわかる。

 何か問題が起きてもいつも「大丈夫だ」と言って、その言葉通りなんでもやってのける副社長。

 今回もわたしは彼の「大丈夫だ」という言葉を聞いて安心したかった。
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