副社長と秘密の溺愛オフィス
――ピンポーン

 そのとき部屋の中にインターホンの音が鳴る。

 お互い顔を見合わせて、一時休戦。

 わたしとしては、これ以上あの話はしたくなかったので助かった。

「ったく……誰だよ」

 副社長が慣れた様子で、インターホンの液晶パネルの前に立ち応答した。

「はい」

 話をしている最中だったせいか、すごく不機嫌な声だ。しかしパネルの中の人物を見た途端「やべっ」と呟いたのを、わたしは聞き逃さなかった。

 スピーカーから相手の声が漏れる。

≪失礼ですが、甲斐紘也の部屋ではないですか? わたくし紘也の母ですが≫

「はい、そうです」

≪あなた、どなたかしら?≫

 お母様が訝しがるのも仕方がない。息子の部屋を訪ねたら、見知らぬ女が応答したのだから。

 病室で心配そうに、わたしの顔を覗き込んでいた副社長のお母様の顔を思い出しながら、副社長がどう切り抜けるのかハラハラしながら見守った。

「わたしは秘書の乾です。すぐにロックを解除します」

≪そう、お願いするわね≫

 とっさに副社長がわたしのふりをして、すぐに解錠した。

「やっかいな相手が来たな。俺たちの最初の試練だ。なんとか乗り切るぞ」

「え、なんとかって……」

「俺も知らん」

 さっきまで随分頼もしいことを言っていたのに、ふたを開けたとたんこれだ。いきなりのピンチにどうしたらいいのかわからず、おどおどするわたし。
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