副社長と秘密の溺愛オフィス
「だから、俺たちの結婚話は今のふたりにとって渡りに船ってわけ。わかったか?」

「はい」

 たしかに名案のような気がしてきた。いつもとに戻れるかわからないのならば、いつも近くにいられる口実が必要なのだから。

「と、いうことで――さっそくでかけるぞ」

「え? どこにですか?」

「どこって、買い物だよ。こんな格好で明日までどうするんだ」

 たしかに着の身着のままだったわたしの服は、弟が入院中に持ってきてくれただろう洋服、今副社長が着ているものしかない。

「今から、わたしのマンションに取りに行きますか?」

 別に買う必要なんてないと思い尋ねた。

「でっかい図体した君が、〝明日香〟のクローゼットを漁る姿を見て家族はどう思うだろうな」

 想像しただけでも、おかしなことになっている。

「わかりました。必要なものだけでも取り急ぎそろえましょう」

 副社長に手伝ってもらいながら着替えをすませ、この奇妙な新しい生活の準備のために、マンションを出たのだった。

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