副社長と秘密の溺愛オフィス
 もしかして、副社長ってケチなの?

 いや、そんなはずはない。秘書課の女子会や忘年会など、いつもこっそり支払いをすませていたり、成績優秀な社員にはポケットマネーで贈り物をしたりもしている。

 きっとこのデパートを使ってなかっただけだ。墓穴を掘って失礼なことを口走ってはいけないので、にっこりと笑ってごまかした。 

 ちょうどいいタイミングで、副社長の着替えが終わったようだ。

「どうだ?」

「え……わぁ。素敵!」

 思わず口元に手を持っていき、感嘆の声を上げた。その姿が鏡にうつって、あまりにも女らしくて慌てて手を膝にもどした。

 あぶない……あぶない。 

 姿勢を正したわたしの前で、副社長がくるりと一回転してみせた。

 深い海の色のような濃いブルーのドレスは胸元のドレープが上品だ。きちんと体にフィットしていて、くるぶし丈で揺れるスカートの裾のカットが美しく上品だ。

「よくお似合いですね」

 店員さんの言葉に、力強くうなずいた。いつものわたしなら絶対に選ばない色と形のドレスだ。

「完璧だと思わないか?」

 腰にてあてて、ご満悦の表情だ。

「たしかに、すごく素敵です」

 隣に立ってマジマジと見つめていると、顔を寄せて小声で話しかけてきた。

「俺の見立てに狂いはなかったな。ずっと思ってたんだよ。君はもっと洋服で冒険してもいいって。だから今日は、俺が満足するまで買い物するから、覚悟しておけよ」

「え、でも……」

 わたしが話をしているのを無視して、さっさとフィッティングルームに消えていってしまった。
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