副社長と秘密の溺愛オフィス
 そこからはもう副社長の独壇場で……車のトランクにはいっぱいの紙袋が積まれ、地下の駐車場ではデパートの社長まで見送りに来るほどだった。

 ミニスカートにサングラス姿の副社長が運転する車が駐車場を出る。ご機嫌な彼は鼻歌まじりに楽しそうにハンドルを握っていた。

「あんなに買わなくてもよかったんじゃないですか?」

 わたしは最初こそは、普段足を踏み入れない高級感溢れる空間に興味津々だったけれど、凄い値札のついた洋服が積み上げられていくのを見るにつれて、恐れ多くなりげっそりしていった。

「どうして? どれもよく似合ってただろう?」

「たしかにそうですけど……わたしのためにあんまりお金を使わないでください。なんだか申し訳なくて」

 入れ替わってしまって以降、副社長におんぶにだっこだ。決して望んだわけではないけれど、マンションにも住まわせもらうことになっている。この上必要のないお金まで遣わせるのは申し訳ない。

「別に俺が好きでしてることだ。今、君の体は俺のだから、俺の好きな格好をさせてもらう。それに君には綺麗に着飾る価値があると思うよ」

 運転をしながらさらりと言われた。お世辞か、わたしを納得させるために適当に言った言葉かもしれない。けれどわたしにとっては、まるごと自分が肯定されているような気がして、心が温かくなった。

「とにかく君と俺は一心同体なんだ。何度も言うが、悲観的になってもしかたない。今のこの状況を楽しもう」

 いきなりそんなふうには思えない。どう考えても異常事態だ。けれど――副社長の言葉を聞くと、不思議と恐怖や戸惑いが薄れていくような気がした。

 たとえ姿が変わっても、甲斐紘也は、甲斐紘也なのだ。

 そしてわたしの中の彼への思いも変わらない。いや、むしろ共に過ごす時間がふえたことによって、諦めようと思っていた彼への思いが余計に強くなるのを感じていた。
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