副社長と秘密の溺愛オフィス
第三章

⑧受難に継ぐ受難--Side紘也

「ぎゃぁあ~」

 男の野太い声で乙女チックな悲鳴が聞こえる。

 おいおい、何度目だよ。次はいったい何が起こったっていうんだ。

 やれやれと思い寝室から出ると、明日香も自分の部屋から飛び出してきた。

 顔面蒼白で涙目のまま俺に訴えかける。

「こ、ここ……これどうすれば……」

 内股でもじもじしている。彼女が指差しているのは――。

「ああ、朝勃――」

「きゃあーー! 言わないでいいです。言わないでっ!」

 青かった顔を赤くして、耳を塞いでいる。どうやら事情は把握したようだ。

「とにかく生理現象だから、出せば治まる」

「だ、出す⁉」

 何か勘違いしたようだ。顔どころが首まで赤い。

「何考えてるんだよ。スケベ。トイレに言って用を足せば治まるから。ほら、行って来い」

「わ、わかりました!」

 弟がいるのに、そういうこと何も知らないんだな。

 小走りでトイレへ駆けていく姿は、とても甲斐建設の副社長の姿だとは思えない。今日から出社する予定だが先が思いやられるな。

 しかしあの取り乱した姿……思い出すだけで笑える。いつもは何か問題がおきても冷静に対処していた明日香が、さすがに今回のことはそうもいかなかったらしい。

 彼女の新しい一面が見られたと喜ぶのは不謹慎だろうか。

 冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、ゴクゴクと半分ほど飲んだ。一息ついて、あらためて今日までのことを思い返す。
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