副社長と秘密の溺愛オフィス
「なんで、俺が電車で通勤なんてしなくちゃいけないんだよ……」

 満員電車に揺られながら、やっとの思い出で掴むことができた吊革を握り悪態をついた。こんなすし詰め状態の電車に乗るなんて、いつぶりだろうか。

 いつも通りの時間に運転手が迎えの車を寄こした。あたりまえのようにそれに乗り込もうとする俺を明日香が止める。

「紘也さん、あなたは今、秘書の乾明日香なんですよ。それが副社長の車で一緒に出勤だなんてありえません」

「じゃあどうしろと?」

 尋ねた俺に彼女がパスケースを渡す。

「これを使って電車で向かってください。ではそろそろ出発しないと秘書課のミーティングに間に合いませんから急いで下さいね」

 まるでいつも俺のスケジュール管理をしていたときのように言い放ち、自分は迎えの車に乗り込んで出勤してしまった。

 取り残された俺は仕方なく最寄り駅に向かい、電車に乗り込んだのだ。

 絶対根に持ってるな。あんなに怒らなくてもいいのに。

 電車が揺れる事にギュウギュウと四方八方から押されながら、朝のちょっとした出来事を思い出す。

 俺の選んだ服で出勤しようとしたら、ひどく慌てた様子で止められた。そこから無理矢理着替えさせられそうになり、抵抗する。渋々着替えると、今度は下着までダメ出し。

 いいだろ別に、好きな女に自分好みの服を着て欲しい。そんな可愛い男心なのに。

 まぁ、着るのは俺自身なのだけれど。

「はぁ」と大きなため息をついたとき、太腿のあたりに違和感を覚えた。
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