副社長と秘密の溺愛オフィス
「ミスはミスとして反省はしなくてはならない。けれどここで萎縮してしまってはダメだ。しっかりと次に活かして欲しい。もう少しリラックスして。それに、たまにはミスしてくれないと、上司としてカッコいい姿が見せられないだろ?」

 最後はこちらを気遣うように、肩をすくめてみせた。

 わたしがずっと肩に力を入れているの、わかってたんだ……。

 他の人はおそらく気がついていない。

 それはわたしがそう見えるようにしていたからだ。アヒルと同じように悠々と泳いでいるように見せて、水面下では必死に足をばたつかせていたのだ。

「まぁ、とにかくあんまり頑張り過ぎない程度に頑張って。ほら、行くぞ」

 わたしの肩をポンと叩いて、出口に向かう。

 しかしぼーっとしていたわたしは、動けないでいた。

「置いていくぞ」

「え、あっ……すぐに、まいります」

 戸惑ってしまったのは、そのとき見た副社長の柔らかい笑顔が落ち込んだわたしの心の隙間にすっと入り込んでしまったからだ。

 あの時の笑顔は、今もずっと胸の中に残っているのだけれど――。

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