副社長と秘密の溺愛オフィス
 総務部に属する秘書課は役員フロアの一角にある。男性よりも女性が多い部署なので、小さいけれど華やかだ。

「おはようございます。乾さん、お体はもう大丈夫なのですか?」

 さっそくさっき話をしていた石丸さんが話かけてきた。

「あぁ……おかげさまで。かすり傷程度だったから」

 実際のところは、医者でも治せない事態に陥っているけどな。

「よかったです。心配したんですよ」

「ありがとう」

 ミーティングが始まる気配がして、奥に向かい上座に立った。すると驚いた顔の石丸さんが、急いで俺の手を引っ張る。

「そこは秘書課課長が立つ場所です。どうしたんですか? 事故のせいで色々忘れちゃったんですか?」

「あぁ、そうだった」

 長年培ってきた癖というのは怖いものだ。とりあえず石丸さんの横に立ち課長が入ってくるのを待つ。

「やっぱりさっき副社長がおっしゃってたのは本当のことなんですね」

「え? アイツ――じゃあなかった、副社長がこちらにみえられた?」

「はい、朝のずいぶん早い時間に。わたしが給湯室の掃除をしていると、乾さんのこと事故後で色々大変だから、頼むって。本当に素敵な上司ですよねぇ。わたしも副社長の元で働きたい。あんなにかっこよくて紳士で仕事ができて、乾さん羨ましいです」

「だろ?」

 そうだそのはずだ。なのに明日香ときたら、まったくそんな素振りも見せずいつも淡々と仕事をこなしている。俺に夢中になられて仕事ができなくなるのも困るが、三年もたてばそろそろ俺の気持ちを察してもいいころだと思うのだがな。
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